インタビュー

天白防災のお二人にインタビュー。『消防設備士』の実態に迫る

tempakubousai

2026年5月、『株式会社天白防災』を設立した小室佳飛さんと山田遼さん。

『消防設備士』という仕事にほとんど接点のなかった筆者が、お二人へのインタビューを通して、その知られざる実態と仕事に向き合う二人の姿に迫ります。

── 『消防設備士』という職業自体あまり馴染みのない方も多いと思います。ひとことで表すなら、どんなお仕事でしょうか。

山田 「未来を守る仕事」です。

小室 「もしもの火災のための安全点検」です。

── 各々の解釈をありがとうございます。火災の発生を防ぐだけでなく、万が一の際に人命を守れるよう、設備を整えておくお仕事ということですね。

山田 そうですね。(消火器や火災報知器などの)設備点検や設置がメインのお仕事になります。万が一の時に設備がきちんと作動するかどうか、半年に一度点検しています。

── 火災が起きてから駆けつける消防士とは、まさに対照的ですよね。契約している現場には、半年に一度のペースで訪問するということでしょうか。

山田 そうです。たとえば近年でいうと、サウナの事件(2025年12月、東京・赤坂の高級個室サウナ店で火災が発生し、30代夫婦が亡くなった事件)がありましたよね。

── 痛ましい事件でした。

山田 あの事件については現場を見ていないので、詳しい事情は把握できませんが、「非常ボタンを押しても異常を知らせる装置が作動しない」「その結果、救助が要請できない」……そうした事態が起こらないようにするためにも、定期的な点検は欠かせません。点検して「異常なし」と報告したからには、設備がきちんと機能しなければならないですよね。

たとえば、実際には点検していないのに、「点検済みです」と偽造の報告をしてしまえば、いざという時に設備の不具合を見逃すことにつながります。

── 何も起こらないことが一番の幸せですが、だからこそこのお仕事を知るきっかけも少なかったように思います。非常時にこそ真価が発揮される大切なお仕事ですよね。

普段はどんな現場で、どんな作業をされていますか。

山田 現場で言うと、一軒家以外のほぼすべてが対象になります。共同住宅や学校、工場、テナント、オフィスビル、病院、保育園……。

小室 場所によって点検作業も異なってくるのですが、基本的には「設備があるべき場所にあるか・それがきちんと作動するかどうか」の点検ですね。

── たとえば報知器などは、実際に作動させて音を鳴らしてみたりするのでしょうか。

小室 作業を細分化していくとキリがないので一概には言えないのですが、物によってはそういった点検も行います。

── ありがとうございます。では、一日の仕事の流れを教えていただけますか。

山田 日によってまちまちですが、だいたい朝6時頃に起床して、7時に家を出ます。そして9時から業務開始。現場によって午前中で終わるところもあれば、一日かかることもあります。

午後は大抵、13時頃から再開します。15時半~16時半には終わることがほとんどですが、夜までかかることもありますね。帰宅してからは、その日の報告書を書いたり、翌日に担当する現場の資料に目を通したりします。

小室 僕たちは基本的に二人で現場に向かうのですが、場合によっては別々で稼働することもあります。応援で呼ばれた場合、人数要請が一人であれば、どちらか一方が担当することもありますね。

山田 同日、同時刻に別現場が入ってしまった場合なんかも、各々で別現場に向かいます。

── 現場がブッキングすることもあるんですね。

山田 そうですね。僕と小室のどちらが担当しても(仕事の技量として)遜色ないという自負があるので、現場にアクセスしやすい方が行ったり、その後の予定を踏まえて振り分けたりしています。

 ── このお仕事は扱う設備も多く、実務や知識を習得するにはかなりの時間を要するかと思います。お二人はこれまで、どのように経験を積んできたのでしょうか。

小室 一番最初は、(以前勤めていた)会社の先輩に「これってなんですか?」と訊くことから始めました。でも、もちろんすぐに習得することは難しいから、先輩も「(設備が)きちんとついてるかどうかだけ見てね」という感じで。いろいろと話を聞きながら、徐々に仕組みを理解していきました。あとは『点検表』というものがあるので、その項目にしたがって確認していって。偉大な先輩方に助けられましたね。

── 本当に、地道な努力の積み重ねですね。最初の現場に入る前には、資格を取ったり座学をしたりする必要があるのでしょうか。

小室 そんなことはないです。ひとまず、現場に飛び込む。だから僕も、最初は「なんか棒持ってやってるな」くらいの感じで(笑)

山田 実際の業務とはすこし異なりますが、やっぱり現場での振る舞いというのはとても大切なんです。僕たちは『現場感』と呼んでいるんですけど、「この現場ではこうしてね」「ここではこういうことはしちゃいけないよ」などの不文律がある。建物はもちろん、その中にいる人も多種多様だから、それぞれルールが異なってくるんです。それらを踏まえて、まずはご迷惑にならないように心がけています。

だからこそ、仕事をするときも「ただ作業をする」のではなくて、「どうして(その作業が)必要なのか」ということを意識して。分からなければ、帰って調べる。そういう生活を一年くらい続けていると、いやでも身についてきますね。

── ありがとうございます。小室さんと山田さんは、このお仕事を始めてからそれぞれ何年目になるのでしょうか。

小室 僕は7年目になります。

山田 僕は5年目に入ります。(2026年10月時点)

ただ、勤続40年の方とかもいるんですよ。やっぱり勝てないです。

── 40年は確かに凄いですね…!ベテランさんとの違いを感じる場面などはありますか。

山田 知識量と経験ですね。ベテランの方たちは踏んできた場数が多いぶん、『消防設備士』としての歴史を知っているんです。たとえば、大きな火災が起こったあとは必ず法改正があるんですけど、そういう『消防法』の変遷も含めて頭に入っている。

たとえば、ある建物の設備が、僕らの知っている法令ではだめなはずなのになぜかそのままになっているとします。それについて僕が尋ねると、その先輩は「50年前にできた建物だからだよ」と答えを返してくれる。つまり、施工当初の法令に則って設置されているから、現在の法令に準じていなくても問題ないということなんですね。

ただ、その建物を改築したり、何分の一かを改装・増築したりする場合は、今の法令に従って建て直さなければならないんですけど。

── 現在の法令のみならず、建設当時の事情まで把握しておく必要がある場合もあるんですね。現場仕事だからこその奥深さを感じます。

── このお仕事をしていて「大変だ」と感じる瞬間はありますか。

山田 実は僕、高いところが苦手なんです。高所恐怖症で……。なので、高所作業は小室に任せちゃったりすることもあって。「申し訳ないね」って(笑)

小室 初めて山田と一緒に現場作業した時、たった4段くらいの脚立なのに子鹿みたいにプルプル震えてて(笑)

でも不思議なもので、だんだんと登れるようになってきてますね。集中して気合いを入れて、覚悟決めて行ってるみたいで。

── 克服とまではいかずとも、そういう成長物語もありながら(笑)

山田 20階建ての屋上で、さらに梯子を登って作業する、とか。「地上何十mだよ~」みたいな(苦笑)

設備って基本高いところにあるので、煙突みたいなものの上にちょんと乗って、柵もない吹きざらしのところで作業しなきゃいけなかったりするんです。なので大手企業さんの現場だと、入館する前に事前講習を受けたりしますね。過去に実際に起きた事故事例を、サンプル画像とともに見なきゃいけなかったりするんです。注意喚起として…。

── そういう情報って、知ってしまった方が怖いというか、『知らぬが仏』みたいなところがありそうですよね。

山田 そうなんです。知らない方が良かったじゃないけど、やっぱり作業中に雑念がよぎる(笑)

── では、実際にお仕事中に危なかった経験はありましたか。

山田 うーん、やっぱり高いところは危ない。シンプルにめっちゃ狭くて暗い場所とか。あと、雨降ってる時の屋上なんかは危険ですよね。作業用の工具を持っていくので、落雷のときなんかは僕たちが避雷針代わりになってしまう。なので、天候によってはその日は作業を控えておこうということもあります。

── 現場によっては、お二方自身が大きな危険を伴うこともあるんですね。これまでに行ったなかで、忘れられない現場などはありますか。

山田 とある大型商業施設なんですけど、夜間で三日間入ったことがあって。作業時間も、一日あたり10~12時間とか。開店時間ギリギリまでやってました。ずっと高所作業だったんですが、天井裏を歩いたりして、中の設備を点検していくんです。建築法に関わるお仕事の一環として行った現場で。体力的にも精神的にも、かなりキツかった記憶があります。

小室 ほんとに、「いつ終わるんだろう…」みたいな。めっちゃ広くて、脚立を登って作業して、降りて脚立をたたんで移動して、また登って作業して……。ずっとやり続けてました。

── 想像するだけで果てしないですね…!例えば、普通の人がなかなか立ち入れないような場所で作業をすることもあるのでしょうか。

小室 ありますね。僕が一番ワクワクしたのは、地下鉄です。トンネルみたいな地下道で作業をしたんですけど、「おぉ~」みたいな。作業的にはしんどかったけど、普段入れない場所ということもあって印象に残ってます。

── それはたしかに心が躍りますよね。

山田 あと、警察署の点検はかなり興味深かったです。感知器を点検するんですけど、すぐ真横に留置所があって。

── 拘束されてる方が真横にいる状態で作業するということでしょうか。

小室 そうですそうです。互いの素性を知れないように、警察官が二人がかりで毛布を広げて、カーテンみたいに目隠しを作ってくれて。

山田 拘束されている方たちについて、どういう事情でここに留置されているか、何人くらいいるかなど、事前にある程度の情報が共有されるんです。一か所作業を終えたら一旦戻って、また情報共有してもらって…と、何回か出入りを繰り返して。

── お二人の実体験を伺うと、「ただ作業をこなすだけではなく、現場ごとの環境に大きく影響を受けるお仕事」なんだと実感します。少し角度を変えた質問ですが、『消防設備士』ならではの職業病などはありますか。

山田 めちゃくちゃあります!小室と二人で食事に行く時なんかは、その飲食店内で「設備の電源が切れてるな」とか「作動していないな」とか。いろいろ見てしまいますし、そのまま二人で話し合います。商業施設に行ったときも、店舗じゃなくて設備の方に目が向いてしまいます。あとは、点検済証を見て、どこが点検を担当してるのか確認したりしますね。

小室 業界人はみんなそうだと思うのですが、見たことない設備があったら調べたりしますね。街中を歩いているときも、「この建物は日中お客さんがいるから、点検は夜勤でやってるのかな」と想像したりします。

── 建物を利用する側からは見えないところまで、ついつい目が向いてしまうんですね。

── 『消防設備士』という職業は、縁の下の力持ちといいますか、役割の重要さとは裏腹な認知度である印象を受けます。職業そのものを「もっと知ってほしい」という思いはありますか。

山田 それはないですね。むしろ、「この仕事の存在を知ったとて」みたいなところがあるかな。ただ防災知識としては、「この設備がどういう役割を担うのか」などと知っておいた方が、もちろん安全ですよね。仕事そのものを知ってもらうというよりも、僕たちが扱う設備そのものを知ってもらうことの方が、大切な気がします。

小室 僕は小学校の時に、棒を持って校内を歩いているおじさんが何をしているのか分からなかったので…もし当時に戻れるなら、そのおじさんに「消防設備士というお仕事をしているんだよ」と教えてほしかった気もしていて。だからこそ、もう少し知る機会があってもいいかもしれないですね。

落ち着いた語り口で、一つひとつ丁寧に語る小室さん。

ユーモアを交えつつ、軽やかかつ情熱的に語る山田さん。

話ぶりや考え方など、一見異なる印象を受けるお二人ですが、だからこそ『消防設備士』を軸とした強いつながりを感じます。

お二人のお話を聞けば聞くほど、『消防設備士』というお仕事が多角的かつ鮮明にイメージできるようになりました。

非常に重要な役割を担っているのはもちろんのこと、裏側や意外な実態も垣間見えたことから、もっと知りたいとハマってしまう奥深さがあります。

だからこそ、消防設備士を、防災を、知らないままでいるにはもったいない。

インタビューを終えた今、心からそう実感しました。

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